出産レポ④帝王切開の手術室。はりつけになった私を支えてくれた手。

出産レポ
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「予定を繰り上げます。」

夫と静かな時間を過ごしていると、急に周囲が慌ただしくなりました。

助産師さんが近づいてきて、一言。

「予定を繰り上げます。」

予定より早く帝王切開を始めるようです。

何故なのかの説明はありませんでした。

いよいよ、この時が来ました。

準備が整うまで、夫とは一度ここでお別れです。

「また後でね。」

「頑張って。」

それだけ言葉を交わして、夫は一度手術室を出ました。

私は分娩台から立ち上がり、カーテンを隔てた手術室へ歩いて向かいました。

分娩着のまま、点滴も、無痛分娩のために背中へ入れていた麻酔の管もつけたまま。

さっきまでの主人と二人、静かな時間から一転。

急速に物事が進んでいくことを感じていました。

「これからお腹を切るんだ」

その事実を考えないようにしながら、一歩ずつ手術台へ向かいました。

十字架のような手術台

手術台を見て、最初に思ったこと。

──十字架?

十字架の横棒の、手首を置くであろう場所にはいかついベルト。

──はりつけにされるのか、私。

そんなことを考えていました。

(これって……暴れないため?)

私の頭の中では、

「暴れる=痛みに耐えられない」

というイメージでした。

急に怖くなった私は、横になりながら近くにいた助産師さんへ聞きます。

「麻酔が効かなかったり、途中で効かなくなったりすることってないですよね…?」

返ってきた答えは、

「人に寄ります。」

そのプロすぎる回答に固まります。

医療従事者だもの。嘘つけないよね。

聞かなきゃよかった。

その一言で、不安が一気に大きくなりました。

でももう逃げられない。

急に、「本当に手術が始まるんだ」という実感が湧いてきました。

誰が誰だかわからない手術室

手術室には、想像していた以上にたくさんの人がいました。

先生、助産師さん。

みんな帽子をかぶり、マスクをしています。

目元しか見えないので、誰が誰なのかまったくわかりません。

それまでずっと支えてくれていたアネゴも、どこかにいるはずです。

でも、見分けがつきません。

知っている人がいるはずなのに、知らない人たちに囲まれているような気分でした。

そんな中、私の右側には、私の手を握る担当らしい助産師さんがついてくれました。

正式に「手を握る担当」という役割だったのかはわかりません笑

でも、その助産師さんは私が怖がっているのを察して、ずっと声をかけてくれました。

「名前は決まってる?」

「退院したら何食べる?」

そんな何気ない質問をずっとしてくれていました。

そして、右手をずっと握ってくれていました。

手を、ずっとぎゅっと握っていました。

正確には、「握ってもらっていた」というより、私が必死に握りしめていたのかもしれません。

ものすごく心強かったです。

7割に入るはずが、私は3割でした

やがて院長先生が来て、麻酔の準備が始まりました。

無痛分娩で入れていた麻酔とは別に、帝王切開のための麻酔を追加することになったのだと思います。

そのとき、先生から説明がありました。

「7割くらい成功するんだけど、成功するとすごく術後が楽なんだよね」

7割。

半分以上。

それならきっと大丈夫。

私は当然のように、自分は7割の方に入ると思っていました。

朝の処置のように横になり丸まり、背中に追加の処置をされます。

その後仰向きになり、手首を固定されました。

はりつけです。

麻酔が入れられ、しばらくしてから確認が始まります。

「足、上がりますー?」

「はーい」

私は言われたとおり、足を上げました。

すると先生が、

「あれぇ?」

と一言。

……何に対する「あれぇ?」ですか?

足が上がったらダメなの?

麻酔、効いてないの?

先生の何気ない一言で、私の不安は一気に跳ね上がりました。

どうやら、私は7割ではなく、3割の方だったようです。

成功するとすごく楽になるはずだった麻酔は、うまく効きませんでした。

私は、まさかの3割。

こういうときだけ、少数派を引き当てなくていいのに。

今、ケンカしないでください

最初の方法ではうまくいかなかったため、背中に入っていた無痛分娩の管から、さらに強い麻酔を入れることになりました。

麻酔が効くのを待つ時間、にわかに先生とスタッフの間で不穏な空気が漂います。

院長先生と助産師さんが言い合いを始めました。

詳しい内容は覚えていません。

でも、助産師さんが

「でも……」

と言い返すと、

院長先生はそれを強い口調で遮ります。

助産師さんは涙ぐんでいるように見えました。

こちらは、これからお腹を切られる状態です。

(いや、今?)

(患者の前だぞ……?)

こちらはベルトで固定され、見守ることしかできません。

動けませんが、声聞こえます表情見えます。

(今、ケンカしないで……)

(せめてお腹を閉めてからにして……)

心の中で必死にお願いしていました。

実際には「ケンカ」というほどではなかったのかもしれません。

でも、手術台の上にいる私には、十分すぎるほど怖い状況でした。

命を預けるチームが手術直前で不和。

(チーム一丸であれ。)

ただでさえ最初の麻酔が効かず、不安が限界まで高まっているところです。

後日知ったことですが、医院長が私の帝王切開を早める判断をして、

助産師さんは受診待ちの患者さんと医院長の板挟みにあっていたようです。

刻々と変わる現場に対応する医院長も助産師さんも、本当に大変なお仕事だと思います。

ただその時は、不安でしかありませんでした。

左手は夫、右手は助産師さん

手術の準備が整ってから、夫がもう一度中へ呼ばれます。

そして、私の左側へ来て、手を握ってくれました。

左手は夫。

右手は、手を握る担当の助産師さん笑

私は両手を、それぞれぎゅっと握っていました。

怖くて、夫と何を話したのかはほとんど覚えていません。

きっと、まともな会話はしていなかったと思います。

ただ、手の感触だけは覚えています。

私が強く握っても、二人とも離さずにいてくれました。

一人だったら、とても耐えられなかったと思います。

何か特別な言葉をかけてもらったわけではありません。

でも、両側から手を握ってもらえているだけで、

「大丈夫」

と言ってもらえているような気がしました。

いよいよ手術が始まる

麻酔が効いたことを確認すると、いよいよ手術が始まりました。

私から手術をしている部分は見えません。

胸元には布のような仕切りがあり、お腹側は見えないようになっています。

見えなくてよかった。

見えたら絶対に無理です。

痛みはありません。

でも、何も感じないわけではありませんでした。

お腹の中を触られている。

押されている。

引っ張られている。

そんな感覚は、なんとなくわかります。

痛くはない。

でも、怖い。

何をされているのか想像すると、さらに怖くなる。

私はなるべくお腹のことを考えないようにしました。

天井のライトも眩しい。

目を閉じると、今度は手術のことばかり考えてしまう。

だから夫や助産師さんの手を握りながら、先生たちの声をただ聞いていました。

手術は、私の恐怖とは関係なく、手際よく進んでいきます。


痛みはありません。

でも、怖い。

私は両手をぎゅっと握りながら、息子が出てくるのを待ちました。

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